「これは絶対買うべき!」
という金融商品は通常あり得ませんが
「これは避けた方が良い!」
と思う金融商品はたくさんあります。
その一つが元本払戻金が支払われる投資信託です。
元本払戻金とはファンド(投資信託)の資産の一部を削って支払われる分配金のことです。
毎月高利回りの分配金がもらえると思っても実態は元本を削って支払われているだけという投資信託は少なくありません。
分配金のうちどれだけが元本払戻金になっているかは報告書を見ないと分かりません。
というわけで本ページでは元本払戻金がどれだけ出ているか確認する方法と元本払戻金が支払われることの問題点等を解説します。
元本払戻金の問題点
元本払戻金は以前「特別分配金」という名称で記載されていました。
しかし「特別」だと良い物だというイメージを消費者(投資家、出資者)に持たれる恐れがあるため現在は「元本払戻金」で統一するように義務付けられています。
本ページのタイトルにもしてあるように元本払戻金が支払われるメリットは投資家にとって何のメリットもありません。
資産がどんどん減っていく
元本払戻金はその名称の通り元本の一部を削って支払われているだけなので半ば強制的に勝手に投資額の一部を売却されているようなものです。
元本払戻金が増えれば増えるほど、自分が投資しているファンド(投信)の元本が目減りしていき最終的に元の半分以下、3分の1以下となってしまうことも珍しくありません。
元本が減るということは資産が減るということです。
投資している資産が減ると利回りが悪くなるため投資している意味がなくなります。
1000万円投資していたものが分配金、元本払戻金によって少しずつ資産が切り崩され300万円までに減ってしまったとします。
すると同じ年間5%の利回りでも1000万なら50万の利益を得られますが300万だと15万円まで減ってしまいます。
通常長期的に投資すれば複利によって元本が増え、得られる利益は大きくなってきますが元本を減らしてしまうと得られる利益は逆に小さくなってしまいます。
ファンドの純資産が減少するのは大問題
投資信託において純資産が減少するのは非常に問題です。
もちろん金融市場の値動きによって上下するのはある程度仕方がないことですが、それ以外が原因で資金が流出して資産が減ってしまうのは運用の仕方が悪いとしか言えません。
分配金の支払いで資産を流出させて純資産を大きく減らしてしまっている投資信託は少なくありません。
下の画像の二つの投信はいずれも大規模に拡販して口数を増やし資産を一気に増やしていますがその後分配金によって資産が流出し純資産総額が減少傾向にあります。
※A投信、背景のグレーのグラフが純資産総額
※B投信、背景の水色の山になっているグラフが純資産総額
後者(B投信)はピーク時5兆円という異例の資産を保有していましたが現在は7千億円まで減少しています。7千億でも国内の投信としてはかなり大きい資産ではありますが未だに毎月分配金が支払われているので資産の減少は止まっていません。
※下画像はB投信の直近1か月のグラフ
純資産総額はそのファンドのパワーそのものを表す数値です。
保有している金融資産の値動きによって下がってしまうのなら仕方ありませんがそれ以外で資産が流出してしまうことはどのファンドにとってデメリットでしかありません。
資産が5兆円あれば年利2%の利益でも1000億円の利益となりますが7000億だと140億円の利益しか出なくなります。
ファンドの資産が減るということはそれだけ利益を出すのが難しくなるということです。
税金は掛からないが帰ってはこない
利益によって得られた分配金には税金(約10%)が掛かってきますが元本払戻金に関しては利益を得ているわけではないので税金は掛かってきません。分配金を1万円得ても100%元本払戻金なら税金は0円となります。
しかし問題は元本払戻金があっても支払った税金は帰ってこないことです。
下の表は毎月分配金を受け取った場合と再投資した場合に掛かる税金の一例です。
月数 | 分配金 ()内は運用利回り | 税金 | 分配金再投資 ()内は運用利回り | 税金 |
---|---|---|---|---|
1月 | 100円(10%) | 20% | 0円(10%) | 0 |
2月 | 100円(-10%) (元本払戻金) | 0 | 0円(-10%) | 0 |
3月 | 100円(10%) | 20% | 0円(10%) | 0 |
4月 | 100円(-10%) (元本払戻金) | 0 | 0円(-10%) | 0 |
合計 | 課税対象200円 (運用利回りは0%) | 40円 | 利回りが0なので 売却しても課税されない | 0 |
例えば1万円で投資信託を購入したとして、1か月目に利益によって100円の分配金を得た場合通常約20%の税金を支払う必要が出てきます。
2か月目に得た分配金は元本払戻金だったので税金は掛かりません。3か月目は利益による分配金で20%、4か月目は元本払戻金のため0円とした場合、合計2か月分(200円)の利益を得た計算となりその分に20%課税されます。
一方で再投資した場合は課税されないので利益がなければ税金は0円となります。
分配金は毎月受け取ってもデメリットしかないわけです。
元本払戻金が出ているかを確認するためには?
ここまで読んでいただければ元本払戻金がどれだけ問題であるか分かったと思います。
では自分が購入している投資信託、購入しようと考えている投資信託の元本払戻金はどうすれば確認できるか。
通常ネット証券会社等の管理画面では分配金の金額と過去にいくら出ているかまでしか確認することができません。
そのためその投資信託の「運用報告書」を確認する必要があります。
運用報告書はその投資信託を運用している運用会社のホームページで確認する必要があります。証券会社によっては投信の運用報告書へのリンクがある場合もあります。
調べたい投資信託の名称を検索して運用会社のホームページを見てみましょう。
下画像はフィデリティ証券のホームページのもの。
分配金の内訳は運用報告書に記載があります。月間レポートにはない場合があるので運用報告書をご覧ください。
下画像は某ファンドの分配金の内訳です。
直近の分配金60のうち4分の1が「当期の収益以外」となっています。当期の利益以外ということは資産を削って支払っている他ありませんよね。
よく見ると第147期以外すべて「当期の収益以外」から分配金が支払われていることが分かります。
まとめ そもそも毎月分配型は危険
記事冒頭で「元本払戻金を支払っている投資信託は買ってはいけない」と言いましたが実は毎月分配型の投資信託のほとんどが元本払戻金を支払っていたりします。
でも無理もないんです。そもそも投資はどんなに優秀な人が運用してもマイナスなってしまう時もありますし、毎月確実に利益を出していけるものではありません。
どんな投資、投信でも良い時もあれば悪い時もあるのです。
しかし利益が出ないからといって分配金を辞めてしまうと「この投資信託は危ないかも」と思って売却に走る人が殺到してしまいます。
※下画像は分配金を300円から200円に落としたファンドの報告書の一部です。
分配金を減額することで純資産の急減は免れていますが受益権総口数(購入口数)が減少しています。
今後売却が更に増えると純資産総額が減少し投信の力そのものがなくなってしまいます。
だから身を削ってまで分配金を支払うわけです。
投資信託の資産が流出することは自分が投資している資産が流出してしまっているということです。
不必要に資産を流出させる投資信託は選ばない方が安全です。