近年株式市場がやや冷え込み、REIT(リート・不動産投資信託)に人気が集まっています。
価格ドットコムの売れ筋ファンドを見てもわかる通り、特に海外のREITへ投資する投資信託は非常に人気があります。
※画像は2016年9月の投資信託人気ランキング。上位3本すべて海外REIT型ファンドとなっている。
一般的にREITは株式に比べて低リスクで収益性が高いとも言われており、銀行の担当者等もそのような営業トークをすることが多いです。
海外REITなのでオリンピック需要は関係なく、単純に低リスクで収益性が高いと思われている結果であると推測できます。
しかし本当にREITは株式に比べて低リスクなのか?
収益性が高いのか?
結論から言うとその解釈は間違いです。
本ページではまず「リスクとは?」というところから客観的な数値を基に、REITは株式に比べて低リスクとは言えないということを具体的な数値から解説していきます。
リスクとは振れ幅のこと
リスクは一般的に危険性が高い、損失が出る可能性が高い、と解釈されやすいですが、投資業界ではリスクとは「振れ幅」を表しています。
例えば、ハイリスク投資の代表とされる外国株式はリスクが20%前後と言われており、これは仮に外国株式の投資信託を10000円購入した場合、1年後には12000円〜8000円の間に収まる可能性が高いという事です。
逆にローリスク投資の代表とされる国内債券はリスクが2%と言われており、これは仮に国内債券の投資信託を10000円購入した場合、1年間後には10200円〜9800円の間に収まる可能性が高いという事です。
つまり、ハイリスク投資は結果が荒れやすい投資で、ローリスク投資は見込み通りの結果が出やすい投資であると言えます。
一般的にハイリスク投資は損失が出る可能性が高く、ローリスクは損失が出る可能性が低いと解釈されがちですが、この考え方は完全に誤りです。
騰落率を比較
投資対象のリスクが高いか、言い換えるなら振れ幅が大きいかどうかは過去の運用業績を見ると分かります。
2003年〜2012年の各資産クラス(国内外株・国内外REIT)の運用実績を見てみましょう。
下の表は投資信託評価サイト、モーニングスターのデータを基に4つの平均利回りをまとめたものです、
年数 | 国内株 | 国際株 | 国内REIT | 国際REIT |
---|---|---|---|---|
2003 | 57.37 | 35.31 | - | - |
2004 | 3.69 | 7.37 | 11.84 | 8.01 |
2005 | 50.45 | 34.23 | 18.2 | 34.42 |
2006 | -5.7 | 19.38 | 49.41 | 21.1 |
2007 | -28.57 | -6.27 | -38.01 | -27.55 |
2008 | -35.63 | -44.01 | -34.31 | -57.89 |
2009 | 31.78 | 58.28 | 16.02 | 88.05 |
2010 | -6.42 | 2.59 | 15.57 | 10.57 |
2011 | 0.39 | -7.51 | -1.44 | 4.25 |
2012 | 26.26 | 21.03 | 76.72 | 28.87 |
データ参照元:2012年度のまとめ 過去10年間の年度別、資産クラス別の騰落率|モーニングスター
上記表をご覧の通り単純に株(左半分)よりもREIT(右半分)の方が安定的であるとは言えないことが分かると思います。
2003年は、2000年に起きたITバブル崩壊の影響と、2002年に巻き起こったイラク戦争による世界経済の混乱も終息を迎え、世界経済の安定上昇が始まる!といえる年であったため高い騰落率となっています。
ちなみに2003年の段階ではリート型ファンドがほとんどなかったため未集計となっています。
その後、世界経済は期待通り2006年まで順調に回復するも、2007年にアメリカで世界金融危機が起こり、その翌年2008年に起こるリーマンショックの引き金となる、これらの影響によりリスク資産は軒並み大幅な下落に転じます。
しかし、翌年2009年には世界各国の努力もあり不安はある程度払拭され、どのリスク資産も大きな上昇に転じます。
その後、2010年にはギリシャやアイルランドの財政危機が表面化、世界経済は上昇下降を繰り返しますが、通年でみるとリスク資産は上昇しています。
2011年には東日本大震災が日本を襲い原発の安全神話は崩壊、未来に大きな遺恨を残す事になる、世界ではアラブの春が巻き起こりアフリカで民主化運動が起こりました。
その翌年2012年は世界的な大きな混乱も無かったのですが、この年日本銀行は金融緩和を拡大させ日本銀行が買い入れる株式や国内REITが上昇を始めました。
直近株式型とREIT型の騰落率
総合的なデータは2012年までのものしかなかったため、国内株、国際株、国内REIT、国際REITそれぞれの代表的なインデックスファンドの直近の騰落率を見てみましょう。
国内株(三井住友・日経225オープン)
日本国内の株式に分散投資する代表的なインデックスファンドです。
2011年6月末~2016年5月までの騰落率は最大68.3%、最小-16.1%となっています。
先進国株(野村外国株式インデックスファンド)
日本を除く先進国の株式に分散投資をするインデックスファンドです。
2011年6月末~2016年5月の騰落率は最大65.5%、最小-15.2%となっています。
国内REIT(ニッセイ Jリートインデックスファンド)
国内REIT市場に広く分散投資をするインデックスファンドです。
2011年6月~2016年の騰落率は最大74.3%、最小-22.2%となっています。
ちなみに今回調査している4つの資産クラスで最も高い騰落率、そして最も低い騰落率を記録しているのがこのファンドの数値となっています。
国際REIT(野村 インデックスF・外国REIT)
アメリカのREIT市場に広く分散投資するインデックスファンドです。ちなみに海外REITと付く投資信託の大半は実質はアメリカ市場への投資となっています。REITの世界市場の大半がアメリカなので。
2011年4月末~2016年3月末の騰落率最大57.3% 、最小-10.4%となっています。
国内REITが最もハイリスクという結果
2003年から2012年の実績を見ると、不動産に分散投資を行う国内REITは、実質1番ハイリスクな投資先という結果となっています。
これは株式や債券などの他の資産の不信が巻き起こり資金が国内REIT市場に流れ込む、地価変動による影響、日本銀行の政策金利の影響など、様々な要因によって国内REITの価格は揺れ動くからであると予想できます。
ちなみにあくまで最もリスクが高い(振れ幅が大きい)というだけで最も危険な、損失がでやすい投資であるというわけではありません。
実際の値動きの推移
国内REITの実質推移を見ると、2004年から2006年は世界経済の回復を追い風に順調な拡大を見せますが、2007年2008年は世界金融危機に端を発したリーマンショックの影響により大幅に下落します。
特にリーマンショックの直接の原因となったサブプライムローン問題はアメリカの不動産に関わる問題であった事から、全く関係ないにも関わらす、同じ不動産という投機対象の為に国内REIT市場にも大きな影響を受けました。
元々国内外のファンドが2008年のリーマンショック直前まで不動産を投機的に購入していたため市場が過熱していました(ファンドバブルと呼ばれています)。
2009年には、サブプライムローン問題も一段落した事もあり、国内REIT市場も回復しますがリーマンショック前の水準には遠く及ばず、翌年以降これから回復していくと思われました。
が、2011年に東日本大震災が日本を襲い軒並み不動産価格は下落、追い打ちを掛けるように国外から国内REIT市場から資金を引き揚げる動きが起こり、国内REIT市場はこの年下落します。
その後の2012年に日本銀行による金融緩和の一環として国内REITを購入する事が決まり、国内REIT市場は大きく上昇します。
この様に、僅か2003年から2012年までの9年間を見てみるだけでも、様々な要因に影響を受けて市場が大きく揺れ動いています。
まとめ
不動産に分散投資する国内REITに、現物不動産のように盤石で安定したリターンを得られる、というイメージを持たれる方が多いですが、現物不動産と国内REITは全く別物で、多数の要因によって価格が大きく変動する国内REITは最も値段が荒れやすいハイリスク投資です。
銀行の担当者が話すような安定した物ではありません。
逆に海外REITはリーマンショック時の大きな下落を除けば比較的安定的に推移しています。
国内REIT、海外REITのどちらが良いということではないですが、どちらにもリスクが存在することを理解して、リスクに対する対処をして計画的に投資を行うことが大切です。

不動産ってなんとなく安定してそうだけど数値を見るとよく分かるね。

なんとなく安定してそうだから人気があるというのが現状だ。もちろん人気の海外REITが必ずしも悪い投資であるとは言えないが、現在市場が過熱気味でリスクも高いということだけは把握すべきなんだ。