日本有数の純資産額を誇り、ファンド設定時から毎月安定した分配金を出している実績を見て、投資信託、「新光 US-REITオープン (以下愛称 のゼウスで表記)」の購入を検討している方も多いのではないでしょうか?
ちなみにゼウスはUS-REIT、つまりアメリカのREIT(不動産投資信託)へ投資するアクティブ型ファンドです。
※REIT型投資信託について詳しく知りたい方はメリットあるの?REIT(リート)へ投資する投資信託は買いなのか。をご一読ください。
ゼウスは2004年9月のファンド設定時から今日まで資金流入が継続し、2016年現在では15,174.58億円という日本有数の規模を誇る投資信託に成長しました。
その資産流入を見ると、人気は依然継続しており、この流れは今後も続いていく安定した物だと思えるので、特に初心者は「文句なしに買うべきなのではないか?」と見えてしまいます。
しかし、このゼウスは本当に買いなのでしょうか?
純資産は拡大を続けていますが、基準価額は下落が続いています。
ここに何だか嫌な気配を感じませんか?
このページでは、そんな人気の投資信託ゼウスについて解説していきます。
※それから約2年、2018年7月現在の純資産総額は7,228.87 億円と半分以下になっています。
ゼウスはハイリスクローリターンファンド
結論から言うと、ゼウスは資産を増やしたいのなら買ってはいけません。
日本有数の純資産額、資金流入額、安定した分配金から安定感があるように見えますが、実はゼウスは損をする可能性が高い投資信託です。
買ってはいけない理由その1.手数料が高すぎる
ゼウスは購入、購入時に高い手数料が掛かります。
手数料が安いことで有名なネット証券SBI証券でゼウスを保有する場合を例に見てみましょう。
購入時の手数料は金額によって変わります。
- 1000万円未満 3.24%
- 1000万円以上 2.16%
- 3000万円以上 1.08%
- 1億円以上 0.54%
日本の投資信託の購入手数料平均は約2.6%、購入手数料無しで購入できるファンドも増えてきた現在の購入手数料の状況を見ると、この購入手数料は非常に割高です。
また、ゼウスの保有時に掛かる手数料(信託報酬)は1.6524%となっています。
日本の投資信託の信託報酬の平均は約1.5%、平均を超えるゼウスの信託報酬は割高だと言えます。
手数料が高いほどリターンも高いような気がすると感じている人もいるようですが、実際は手数料の高い低いはリターンとは何の関係もありません。
むしろ手数料はリターンから確実に削られる費用なので、手数料は安ければ安いほど良いリターンを得られるというのが投信業界の常識です。
参考記事:投資信託の手数料、信託報酬は安いものを選んで間違いなし

不確実な利益よりも確実性の高い利益を確保することが投資の秘訣なんだ。手数料などの経費は確実に損失に繋がるので経費削減は見方を変えれば確実な利益となる。というのが賢い投資家の考え方だ。

要するに「不確実な利益を追求するよりも確実に損失となる経費を減らせ」ってことですね。
ゼウスは購入した時点で、3.24%から0.54%以上の手数料が掛かり、その手数料に保有手数料の1.6524%も加えれば、
購入手数料3.24%~0.54%+保有手数料1.6524%=初年度費用4.8924%~2.1924%
1000万円以下の投資の場合、初年度はファンドの運用によって4.8924%以上のリターンを上げなければ利益が出ません。
ゼウスが投資する海外REITの期待リターンはよくて年率5%程度と言われているので、期待リターンを得たとしても1000万円以下で購入した場合には、初年度の利益は殆どありません。
そして、期待リターンを得られない場合には、手数料負けして損をしてしまうことになります。
しかも、恐ろしいことに手数料が安いSBI証券でこの手数料ですから、銀行などの手数料が割高な金融機関でゼウスを購入し、この手数料を超える金額を支払っている場合には、利益を得ることは非常に難しいでしょう。
「初年度は捨てて、翌年から利益を得ていけば良い」と考える方もいるかもしれませんが、昨今は同じアメリカの不動産に分散投資し、購入手数料、解約手数料も掛からず、保有手数料も低いファンドは沢山あります。
運用実績も決してゼウスが優れているというわけではなく、手数料の差で同分類の他のファンドの利回りが良いという状況です。
参考記事:REIT(リート)に投資する投資信託を買うならインデックス型がおすすめ
わざわざ高い手数料が掛かるゼウスを選んで投資する必要はないでしょう。
買ってはいけない理由2 毎月分配型はデメリットしかない
ゼウスは毎月分配型の投資信託です。
毎月分配型の投資信託は、長く持つほど損をする構造になっています。
毎月払い出される分配金によって資産を増やすのに重要な複利効果はなくなり、仮に分配金を再投資しても分配金が支払われた時点で税金が引かれるので、税金分だけ複利効果が減退します。
更に、分配金の分だけリターンを得ていれば良いですが、毎月分配型の投資信託はファンドの運用による利益が出ていなくても分配金を支払います。
その場合、ファンドは資産元本を取り崩して分配金を支払うので、投資家は資産を買うために投資したお金を分配金として受け取ることになります。
ゼウスは設定時から毎月分配金を支払い続けています。一見すると毎月分配金を出す安定した運用をしていると判断できますが、アメリカのREIT市場は好調ですが基準価額は減少を続けています。
設定時の10,000円の基準価額は今では3,500円まで減少しています。
これはゼウスの価値が設定時から比較して約35%まで落ちていることになります。そして、価値が35%に下がったということは、得られるリターンも当初のリターンの35%になっているということです。
現時点では資金流入が続けているので、毎月分配金を出し続けていられますが、この分配金の何割が投資リターンから支払われているのでしょうか?
ゼウスは基準価額が約3割になっても分配金の価格はキープしています。既に分配金の大部分は、元本の取り崩しで賄われていると見るのが自然です。
自分の投資した資金を税金と手数料を抜いて、分割して毎月払い戻すゼウスで資産を増やすことはできないでしょう。
それでもゼウスが人気の理由
ここまで読んで頂ければゼウスは選ぶべき投資信託ではないということが分かったと思います。現に私を含め、多少なりとも投信の知識がある人はどんなに人気があろうとゼウスを買ったりはしません。
それなのに何故ゼウスの人気があるのかというと主に、
- 安定した分配金が支給される
- 海外REITそのものに人気が高まっている
- 金融機関の販促活動
からであると予想できます。
金融機関は儲かる商品を販売したいので、手数料の高いゼウスを売るために販促活動に力を入れています。
そして販促活動するにしても、人気のアメリカREITに幅広く投資でき、毎月分配金が支払われて一見儲かっているように見えるゼウスは金融機関にとって非常に売りやすい商品なのです。
金融機関の強力な販促活動がゼウスの人気の秘密です。
まとめ 今後の見通し
ゼウスは金融機関の販促活動が続いて、資金流入が続く限りはこのまま徐々に基準価額を落としながらも償還日(ゼウスはファンド終了日が設定されています)の2019年9月末まで存続していくと思います。
しかし今後米REIT市場が悪化し、ゼウスを売りたい人が殺到し基準価額が暴落すると繰り上げ償還(償還日を早めること)される可能性も否めません。
投資を通してお金を増やしたいのなら、「手数料が高い」、「毎月分配金を出す」、「資産が減っていく構造」になっている投資信託には投資してはいけません。
2018年7月追記 基準価額は2,600円代まで下落
2016年9月頃の基準価額は3,500円程度でしたが、それから2年足らずで現在2,600円(約-26%)となっています。
また、分配金も2年前は75円でしたが現在は25円で、こちららは3分の1まで低下しています。
こうなると分配金を含めたトータル・リターンもかなりの赤字になっているでしょう。
償還(ファンドの終了)まで後1年ちょっとですが、これから購入しても損失する可能性の方が高いでしょうね。